231229

『自炊者になるための26週』を読んでいる。12月は本当に忙しかった。意識を飛ばしていたのでどれくらい忙しかったか、どれくらいしんどかったかもすでにあまり覚えていないのだが、やばめな言葉がするりと独り言として出てくる瞬間がいくつかあったのは覚えている。そういう瞬間と瞬間の間、人ならざる時間に人らしさを取り戻させてくれたのがこの本だった。読むといっても椅子に座って、読むための時間を取って読むような読み方ではなく、エレベーターに運ばれている間や、座れない電車の中などで、電子書籍としてスマホを使って読んだ。いわゆる料理本ではない。効用は哲学書に近い。普段自分が無感動に口の中に押し込んでいたり、もそもそとそそくさと食べてしまうものにもそれぞれ固有の匂いがあること、奥行きをともなう風味があること、調理という操作によってそれの風合いが変わること、そして自分の嗅覚は常にそれらを感じ取っているはずであるということを思い出させてくれる本で、その事実に気づくと自炊に限らず外で食べる食事やティーバッグで淹れる茶の一口も楽しくなる。ご飯は美味しい。香りは伝えてくる。私はそれを感じ取ることができ、好きな方法を選んで操作することもできる。読み始めてから、自炊をすることで得られるものが気になるようになり、真夜中に、生まれて初めてかぶを蒸したり、じゃがいものポタージュを作ったり、ローストした赤ピーマンを3日間くらいだしに浸したおひたしを作ったりした。すべてほんとうに驚くくらい美味しかった。鼻に感謝。香りに感謝。素敵な本を出してくれてありがとうございます。